1. 導入:なぜ高度150m以上の飛行には許可が必要なのか
ドローンを安全に飛行させるための大原則の一つが「高度制限」です。日本の航空法では、「地表または水面から150m以上の高さの空域」での飛行は「特定飛行」に該当し、事前に国の許可を得ることが義務付けられています。
このルールが厳格に運用されているのは、高度150m以上の空域が、旅客機やヘリコプターといった有人航空機の主要な活動圏内であるためです。無許可でこの高度を飛行させることは、航空法違反として罰則の対象となるだけでなく、有人機との衝突という重大事故を招く極めて危険な行為です。安全かつ適法にドローンを運用するためには、正しい知識と厳格な手続きの理解が欠かせません。
2. 「高度150m」の正しい定義と計算方法
高度制限を判断する際の基準は、海抜(標高)ではなく、あくまでドローンの直下の「地表または水面から」の垂直距離です。以下のケースごとに、正しく計算する必要があります。
- 平地や山の頂上から飛ばす場合: 離陸地点の標高がどれだけ高くても、その地点の地表からの高さが基準になります。例えば、標高1,000mの山の頂上から離陸した場合、その離陸地点から垂直に150m未満の高さであれば、高度制限の許可なく飛行可能です。
- ビル等の屋上から飛ばす場合: 極めて重要な注意点として、屋上からの高さではなく「地表(地上)」からの高さで計算されます。例えば、高さ50mのビル屋上で離陸し、そこから100m上昇させた場合、地表からの高度は150mに達するため、事前に許可を得る必要があります。
警告:地形の変化によるリスク 崖や谷など、地表の高さが急変する場所を水平移動する場合、ドローン側の高度設定を維持していても、相対的に地表からの距離が離れ、意図せず150mを超えてしまうリスク(高度超過)があります。特に山間部では、知らぬ間に法令違反を犯す危険が高いため、飛行経路の地形を事前に綿密に確認してください。
3. 【例外規定】許可申請が不要になる「物件から30m以内」のルール
航空法には、高度150m以上であっても許可申請が不要になる例外的なルールが存在します。高層ビルや煙突などの「地上または水上の物件」から30m以内の空域を飛行させる場合は、物件の高さに準じた範囲での飛行とみなされ、150m以上の高度制限に関する許可は不要です。
ただし、この例外規定が適用されるのはあくまで「高度150m以上」の項目についてのみです。飛行場所が人口集中地区(DID)である場合や、人・物件から30m未満の距離で飛行させる場合など、他の「特定飛行」の条件に該当すれば、それぞれの項目について別途許可・承認を得る必要があります。
4. 150m以上の申請が「通常と異なる」3つの重要ポイント
高度150m以上の申請は、一般的な包括申請(期間や場所を特定しない申請)とは仕組みが全く異なります。以下の3つの違いを必ず押さえてください。
- 個別申請のみ: 150m以上の空域は有人機との調整が不可欠なため、場所を特定しない「包括申請」は一切認められません。飛行の都度、具体的な場所と日時を指定する「個別申請」が必要です。
- 空域管理者との事前調整: DIPS(ドローン情報基盤システム)で申請を行う前に、その空域を管轄する空港事務所、航空交通管理センター、自衛隊などの関係機関と調整し、飛行の了解を得ておくことが必須です。
- 申請先の違い: 通常の申請先である「地方航空局(東京・大阪)」ではなく、飛行場所を管轄する「空港事務所」(東京空港事務所または関西空港事務所)が審査の窓口となります。
5. 【ステップ別】許可申請の完全ガイド
高度150m以上の許可を取得するための具体的な手順を解説します。
- ステップ1:事前調整(空域管理者の特定) 国土交通省のホームページを利用して飛行場所を管轄する機関を特定します。調整の際は、飛行場所の正確な緯度経度と海抜高度が必要です。これらは国土地理院地図(GSI Maps)を用いて、地点ごとの標高や座標を正確に取得してください。
- プロの視点: 自衛隊の訓練空域などは、国土交通省のホームページに記載がない場合でも設定されていることがあります。独自の確認や航空自衛隊等との調整が必要になるケースがあるため、早めの着手(最低1週間前)が不可欠です。
- ステップ2:DIPS 2.0での申請入力 「特定の場所・経路で飛行する」を選択し、座標を用いて飛行エリアを詳細に指定した地図を作成・添付します。「調整結果記載」欄や「特記事項」欄には、調整先の機関名、担当者、調整完了日、飛行日時などの調整結果を漏れなく記載してください。
- ステップ3:機体の設定(DJI FlySafe申請) DJI製の機体を使用する場合、システム上の高度制限(通常500m等)を解除する「カスタムロック解除」が必要です。DJIの「FlySafe」システムで申請する際、取得した飛行許可証をアップロードしますが、DJI側の審査では許可書の英訳または中国語訳の添付を求められることがあるため、事前に準備しておきましょう。許可後にロック解除ライセンスを機体にインポートすれば完了です。
6. 安全確保のための追加基準と装備
高度150m以上の飛行では、審査要領に基づき、有人機に対する以下の追加的な安全対策が義務付けられます。
- 機体基準: 有機機からの視認性を高めるため、機体に強力な灯火(ライト)を装備するか、日中でも目立つ認識しやすい塗色(オレンジ色等)を施す必要があります。
- 運用体制: 飛行経路全体を監視できる位置に「補助者」を配置し、有人機の接近や天候の変化を常時監視してください。また、飛行中は関係機関と常時連絡が取れる体制を維持しなければなりません。
- 通知義務: 許可取得後であっても、実際の飛行前日までに管轄の空港事務所長等へ飛行内容を通知することが義務付けられています。
7. まとめ:安全な高高度飛行のために
高度150m以上の空域は、ヘリコプターなどの有人機が日常的に活動する場所です。たとえ許可を得たとしても、操縦者には「有人機を常に監視し、接近を察知したら速やかに回避・着陸させる義務」があることを忘れてはいけません。
特に山間部や起伏の激しい地形では、意図しない高度超過による無意識の航空法違反が発生しやすく、法的なリスク管理も極めて重要です。事前調整の手順や申請書類の作成、そして各メーカーへのシステム解除申請は非常に煩雑です。
もし調整の複雑さや書類作成の難易度に不安がある場合は、ドローン法務の専門家である行政書士に相談することをお勧めします。プロの知識を活用し、安全で確実な高高度飛行を実現しましょう。