ドローン飛行日誌の書き方ガイド:義務化への対応と記入例を徹底解説

2022年12月5日の改正航空法施行により、ドローンの「特定飛行」を行う際には、飛行日誌の作成・携行・保管が法律で義務付けられました。ドローン法務を専門とする行政書士として、多くの操縦者が陥りやすい「記載不備」や「勘違い」を未然に防ぐための実務直結型ガイドを提供します。


1. はじめに:なぜ「飛行日誌」が重要なのか

義務化の背景と概要 改正航空法に基づき、特定飛行(後述)を行う際は、機体ごとの飛行実績や点検整備の記録をまとめた「飛行日誌」を正しく作成し、飛行時に携行(または即座に提示可能な状態に保持)することが義務化されました。

罰則のリスク(行政書士からの警告) 飛行日誌の未備え、虚偽記載、不備があった場合には、航空法第157条の11に基づき10万円以下の罰金が科せられる可能性があります。 ※注意:よく混同されますが、DIPS等での「飛行計画の通報」を怠った場合は、別途航空法第157条の10により30万円以下の罰金の対象となります。二重の法的リスクを理解しておきましょう。

日誌の目的 日誌は単なる事務作業ではありません。不安全な事象(ヒヤリハットを含む)が発生した際の原因特定や、機体の安全基準への適合を確認し、安全運航を維持するための「航跡」として極めて重要な役割を果たします。


2. 飛行日誌を構成する「3つの様式」

飛行日誌は、国土交通省の「取扱要領」に基づき、以下の3つの要素で構成されています。

  1. 飛行記録(様式1): 毎回の飛行実績(いつ、どこで、誰が、どう飛んだか)。
  2. 日常点検記録(様式2): 飛行前後の点検結果(機体、通信、バッテリー等の状態)。
  3. 点検整備記録(様式3): 定期点検、修理、改造、部品(プロペラ等)交換の履歴。

作成の原則:機体ごとの管理 飛行日誌は「機体ごと」に1冊(または1ファイル)用意する必要があります。複数機を運用する場合は、各機体の生涯記録が追えるように独立して管理してください。また、機体を売却・譲渡する際は、これらすべての記録(積算飛行時間を含む)を新しい所有者へ引き継ぐ義務があります。


3. 対象となる「特定飛行」10種類

以下のいずれかに該当する飛行(特定飛行)を行う場合は、日誌の作成が必須です。

  • 空域に関する飛行(場所の制限)
    • 空港等周辺
    • 150m以上の高度
    • 人口集中地区(DID)上空
    • 緊急用務空域
  • 方法に関する飛行(飛ばし方の制限)
    • 夜間飛行
    • 目視外飛行
    • 人または物件から30m未満の距離での飛行
    • 催し場所上空での飛行
    • 危険物輸送
    • 物件投下

4. 飛行日誌作成の基本ルール(共通事項)

実務上、以下のルールを厳守してください。

  1. 「1飛行」の定義: 電源ON(作動)→ 離陸 → 着陸 → 電源OFF(停止)までを1飛行と数えます。バッテリー交換のために電源を切った場合は、そこで1飛行が終了し、次の飛行として記録する必要があります。
  2. 筆記具: 紙媒体の場合は、黒または青のボールペンを使用。消せるペン(フリクション等)は改ざん防止の観点から不可です。
  3. 電磁的記録: Excelや専用アプリでの管理も認められています。ただし、飛行現場でスマホやタブレットを用いて即座に提示できることが条件です。
  4. 保管: 機体登録期間中は継続して保管。所有者変更時は全記録を譲渡先に引き継ぎます。

5. 【様式1】飛行記録の具体的な書き方

飛行の都度、正確に記録します。特に「離着陸場所」は地名だけでなく座標が推奨されます。

  • 登録記号: JUから始まる登録番号。
  • 離着陸場所: 緯度経度(世界測地系)または具体的な住所・固有名称。
    • 例:35.8579°N 139.7011°E(埼玉県さいたま市緑区上野田400)
  • 飛行時間: 1分単位で記録し、総飛行時間(積算)を必ず更新。
  • 安全影響事項: 事故に至らなくとも、安全に影響を及ぼす可能性があった事象(ニアミス等)を必ず記載。

【実データ記入例:インフラ点検の場合】

項目記入内容
無人航空機の登録記号JU1234567890AB
操縦者(技能証明番号)浅見 潤(0123-4567-8901-2345)
目的・経路目的:インフラ点検(橋梁撮影) 経路:〇〇橋 北岸離陸~周辺撮影~北岸着陸
特定飛行の形態目視外飛行、30m未満の飛行
離着陸時刻離陸 09:32 / 着陸 09:58(1分単位)
飛行時間26分(総飛行時間:128時間42分)
安全に影響のあった事項なし(着陸前バッテリー残量25%、正常範囲内)
確認者浅見 潤(操縦者本人が内容を確認し記名)

6. 【様式2】日常点検記録の書き方

飛行前点検を以下の9項目について実施し、結果を**「正常」または「異常」とテキストで記入**します。

点検項目点検内容の目安結果
①機体全般ネジの緩み、破損、機器の取り付け状態正常
②プロペラ外観、損傷、ゆがみ、ヒビ、欠け正常
③フレーム外観、損傷、ゆがみ、アームのガタつき正常
④通信系統電波受信レベル、機体と操縦装置の接続正常
⑤推進系統モーターの異音、振動、回転抵抗正常
⑥電源系統各種電源の健全性(起動確認)正常
⑦自動制御系統GPS受信、IMU、自動帰還機能の動作正常
⑧操縦装置スティックやスイッチの動作、外観正常
⑨バッテリー充電状況、膨張・変形の有無正常

特記事項の重要性 飛行後点検の結果も記録が必要です。特記事項欄に「飛行後点検:異常なし」と記入してください。不具合を発見した場合は、その内容と、後述する「様式3」への連携が必須です。


7. 【様式3】点検整備記録の書き方

定期点検や修理の記録を残します。改ざん防止のための独自ルールがあります。

  • 記入タイミング: 定期点検(20時間ごと推奨)、修理、改造、部品交換(プロペラ・バッテリー等)。
  • 記入のコツ: 前後の記録が混ざらないよう、「上下1行ずつ空けて記載」し、その空行に「〆(しめ)」を記入します。これは後からの書き足しを防ぐための重要な実務作法です。

【記入例:プロペラ交換】

実施年月日: 2026年7月13日 総飛行時間: 129時間08分 点検整備内容: プロペラNo.2を新品と交換(型番:〇〇、シリアル:CP.EN.000…) 実施理由: 前日の日常点検にて微小な接触痕を確認したため、予防的措置として交換。 実施場所・者: 埼玉県さいたま市緑区 / 浅見 潤 (※前後の行に「〆」を記入し、1行空ける)


8. よくある間違いと効率的な運用

⚠️ 行政書士が教えるNG事例集

  • 時間の記載漏れ: 「飛行時間26分」だけを書き、離着陸時刻(09:32〜)を省略している。
  • 場所の特定不能: 「〇〇市内」のみ。市区町村名に加え、座標(緯度経度)または具体的な公園・施設名を記載してください。
  • 複数機の合算: 異なる機体の記録を1冊のノートに混在させている。
  • DIPSの誤解: 国交省の「DIPS 2.0」には飛行日誌の記録機能はありません。 自身でアプリやExcelを用意する必要があります。

電子化の推奨 手書きの負担を減らすため、Excelや「Dronbo」等の専用アプリ活用を推奨します。ただし、アプリを使用する場合も、上記で解説した国交省の取扱要領(9項目チェックや特記事項)をすべて網羅しているか必ず確認してください。


9. まとめ

正しい飛行日誌の作成は、法的リスクを回避するだけでなく、プロの操縦者としての信頼を証明する唯一の手段です。適正な記録が、万が一の事故の際にあなたを守るエビデンスとなります。

【今すぐ取り組むべきアクションプラン】

  1. 機体ごとにファイルを準備: 1機につき1つのExcelまたはノートを用意してください。
  2. 日常点検のテキスト記入を徹底: 「✓」ではなく「正常」と書く習慣をつけてください。
  3. 点検整備記録の空行ルール確認: 過去の記録が「〆」で区切られているか見直しましょう。

法令を遵守し、安全な空の旅を継続しましょう。記録の取り方で迷った際は、専門家である行政書士へお気軽にご相談ください。