ドローンの許可申請や運航管理の実務において、最優先で整理すべき概念が「第三者」および「第三者上空」の定義です。これらの判断を誤ると、意図せず法令違反を犯すリスクを招くばかりか、DIPS 2.0での申請カテゴリー(カテゴリーIIまたはIII)を誤り、手続きの遅延や不備に繋がります。
本記事では、令和8年(2026年)7月14日から適用される「無人航空機の飛行の安全に関する教則(第5版)」に基づき、専門行政書士の視点から「第三者」の定義、判断基準、および立入管理措置の要点を徹底解説します。
1. イントロダクション:なぜ「第三者」の定義が重要なのか
ドローン規制における「第三者」および「第三者上空」の定義は、すべての飛行ルールの出発点です。以下の判断は、すべてこの定義を前提に組み立てられています。
- 飛行カテゴリーの決定: 立入管理措置を講じて第三者上空を飛行させない「カテゴリーII」か、立入管理措置なしで第三者上空を飛行させる「カテゴリーIII(レベル4飛行)」かの分岐点となります。
- 立入管理措置の要否: 特定飛行を行う際、どの範囲に補助者を配置し、どのような手段で第三者の進入を防ぐべきかを決定します。
- 各種規制の適用: 30m以内の飛行制限や、催し場所上空の規制対象も「第三者」の有無で決まります。
実務上、これらはDIPS 2.0での申請における「機体認証」や「技能証明」の有効活用(25kg未満のカテゴリーII飛行での許可承認不要特例など)にも直結するため、極めて正確な理解が求められます。
2. 「第三者」の基本定義と除外される人々
航空法および最新の教則において、「第三者」とは「無人航空機の飛行に直接的または間接的に関与していない者」と定義されています。
逆に言えば、以下のグループに該当する者は「第三者」から除外されます。
第三者に含まれない人(除外対象)
- 直接関与者: 操縦者、現に操縦はしていないが操縦する可能性のある者、および安全確保要員である補助者。
- 間接関与者: 飛行目的を操縦者と共有しており、後述する「3つの厳格な条件」をすべて満たす者。
役割別の第三者判定表
実務上の主な役割について、第三者に該当するか否かを整理しました。
| 役割 | 第三者に該当するか |
|---|---|
| 操縦者(および操縦の可能性がある者) | 該当しない |
| 補助者(立入管理・安全確認要員) | 該当しない |
| 俳優・撮影スタッフ | 該当しない(条件を満たす場合) |
| 人文字撮影に参加する生徒 | 該当しない(条件を満たす場合) |
| 一般の通行人・近隣住民 | 該当する |
| 撮影現場の単なる見学者 | 該当する |
※「該当しない(条件を満たす場合)」については、次の項目で詳述する間接関与者の要件をすべて満たしていることが前提となります。
3. 「間接関与者」と認められるための3つの厳格な条件
特定のスタッフや参加者を「間接関与者」として扱うためには、教則(3.1.2)に定める以下の3条件をすべて満たさなければなりません。
- 共通の飛行目的: 操縦者と共通の飛行目的を持っていること。操縦者が、その飛行目的の全部または一部に当該人物が関与していると判断している必要があります。
- 明確な指示と安全上の注意の理解: 操縦者から、計画外の挙動(機体の暴走や落下等)が生じた際に従うべき明確な指示と安全上の注意を受けており、適切に理解していること。
- 自発的な関与の決定: 飛行目的の全部または一部に関与するかどうかを、本人が自ら決定できること。
【具体的適用の例】
- 映画・CM撮影: 出演している俳優や、安全教育を受けた撮影クルー。
- 学校行事: 趣旨を理解し、安全指示を受けた上で人文字撮影に参加している生徒。
- 農業: ドローンによる農薬散布に従事する農業関係者。
これらを満たさない「単なる見学者」や「校庭外の保護者」などは、たとえ関係者であっても「第三者」として扱うのが実務上の鉄則です。
4. 「第三者上空」の正確な範囲と例外
「第三者上空」の判断において、最も注意すべきは「直上(真上)だけではない」という点です。
「落下想定範囲」を考慮した上空の範囲
教則に基づき、上空の範囲は機体の落下距離(飛行範囲の外周から、製造者が保証した落下距離)を踏まえて判断されます。つまり、機体が故障等で落下した際に到達し得る領域に第三者が存在する場合、法的実務としては「第三者上空」を飛行しているとみなされます。
移動中の車両等の扱い
自動車、鉄道、船舶、建設機械など、移動中の車両等に第三者が乗り込んでいる場合、その上空は原則として「第三者上空」に含まれます。
第三者上空とみなされないケース(例外)
以下の特定の状況下では、第三者上空とはみなされません。
- 遮蔽物による保護: 第三者が屋内や、**移動中でない(静止した)**車両等の内部にいて、ドローンが衝突した際に保護される状況にある場合。
- レベル3.5飛行による一時横断: 必要な要件を満たし、一時的に移動中の車両等の上空を横断する場合。ただし、第三者が車内にいて遮蔽物により保護されている場合に限ります。第三者が露出している(荷台に乗っている、オープンカー等)場合は、即座に「第三者上空」とみなされる点に留意してください。
5. 飛行カテゴリーと「立入管理措置」の関係
第三者上空を飛行させるかどうかが、カテゴリーIIとカテゴリーIIIの法的境界線です。
- カテゴリーII(立入管理措置あり): 第三者の立入りを制限することで、第三者上空を飛行させない運用。
- カテゴリーIII(立入管理措置なし): 第三者上空を飛行させる運用(レベル4)。一等無人航空機操縦士の技能証明と第一種機体認証が必須となります。
立入管理措置の具体例
カテゴリーII飛行を実現するために、以下の措置を講じる必要があります。
- 補助者の配置: 飛行範囲への第三者の進入を監視し、注意喚起を行う。
- 看板・コーン・法定の標識等の設置: 立入管理区画を明示する。
- 物理的制限: フェンスやロープの設置により進入を遮断する。
立ち入りが発生した場合の法的義務
航空法第132条の87に基づき、立入管理措置を講じていても第三者が立ち入った場合には、直ちに飛行を中止するか、経路の変更、または安全な場所への着陸を行わなければなりません。これは、安全確保のための絶対的な義務です。
6. 実務で陥りやすい4つの判断ミス
行政書士として多くの現場を見てきた中で、特によくある誤解とその真相を解説します。
- 「今、人がいないから立入管理措置は不要」という誤解 第三者の定義は「現時点での有無」だけでなく、その場所の性質に左右されます。公道や公園など「通常人が立ち入り得る場所」であれば、補助者の配置等の措置を講じない限り、法的にはカテゴリーIII(第三者上空飛行)と判断されます。
- 「一瞬の通過ならカテゴリーIIでよい」という誤解 時間は関係ありません。一瞬であっても立入管理措置なしで第三者の上空(落下想定範囲内)を通過すれば、それはカテゴリーIIIに該当し、厳格な認証と免許が必要になります。
- 「俳優やスタッフは常に第三者ではない」という誤解 前述の「間接関与者の3条件」を個別に確認し、安全指示の記録等を残していない限り、万が一の事故の際に「第三者上空を飛行させた」と判断されるリスクがあります。
- 「早朝の誰もいない時間帯なら大丈夫」という誤解 主観的な「大丈夫」は法的な免責になりません。場所の公衆性に基づき、適切な立入管理措置を計画することが行政手続き上も不可欠です。
7. 【事例紹介】地域固有のルール
航空法だけでなく、自治体独自の条例確認は行政書士が最も重視する実務ステップです。
- 大阪府のDID(人口集中地区): 大阪府の大部分はDIDに指定されています。DID上空は特定飛行に該当するため、第三者の有無を問わず、原則として航空局への許可申請が必須です。
このように、第三者上空の判断に加え、場所ごとのローカルルールを重畳的にクリアする必要があります。
8. まとめ:安全な飛行のためのチェックリスト
飛行前に必ず以下の項目をセルフチェックしてください。
- 第三者の定義: 操縦者・補助者・間接関与者(3条件合致)以外を排除できているか?
- 上空の範囲: 直上だけでなく、落下想定範囲(落下距離)を考慮しているか?
- 立入管理措置: 補助者の配置や区画明示など、場所の性質に応じた措置は適切か?
- 車両等の確認: 移動中の車両等の上空を飛行する場合、遮蔽物やレベル3.5要件を確認したか?
- 地域ルールの遵守: DID区域の確認に加え、堺市の公園ルール(100g規制・プロペラガード等)を確認したか?
ドローンを取り巻く法規制は非常に動力的です。必ず令和8年7月14日適用の最新教則(第5版)を常に手元に置き、正確な知見に基づいた運航・申請を心がけてください。