1. はじめに:ドローン飛行で最も間違いやすい「30m距離制限」とは
ドローンを安全に飛行させるための航空法において、操縦者が最も頻繁に直面し、かつ誤解しやすいのが「人又は物件との間に30m以上の距離を保って飛行させる」というルールです。
この規制を軽視することは極めて危険です。航空法違反と判断された場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金という厳しい罰則が科せられる可能性があります。実際に、2019年の1年間だけで115件の検挙者が報告されており、その多くがこうした基本的な飛行ルールの未遵守によるものです。
本記事では、ドローン法務の専門家である行政書士の視点から、法令遵守のために不可欠な「第三者・物件」の正確な定義や、実務上の落とし穴、そして30m未満で安全に飛ばすための具体的な申請手続きについて詳しく解説します。
2. 「人(第三者)」の定義:誰から30m離れる必要があるのか?
規制の対象となる「人」とは、操縦に関わっていない「第三者」を指します。具体的には以下の通り分類されます。
- 対象外(関係者): 操縦者、補助者、および撮影スタッフ、出演者、エキストラなどの直接的な関係者。
- 対象(第三者): 上記以外の、撮影や業務に関与していない通行人や近隣住民、見物人など。
この「30m」という距離については、水平距離だけでなく垂直方向(高度)も含まれます。例えば、第三者の直上であっても、高度を30m以上確保していれば法的な「距離制限」はクリアしているとみなされます。
ただし、法務の専門家として警告したいのは、高度確保による回避は「落下の際のリスク」を伴う点です。法的に30mを確保していても、万が一の墜落時に第三者に危害を加えれば「安全確保義務」に抵触します。高度による回避はあくまで法的な最低ラインと捉え、安全マージンを十分に取ることが重要です。
3. 「物件」の定義:建物だけじゃない?意外な該当例
「物件」とは、国土交通省により「中に人が存在することが想定される機器・工作物、あるいは相当の大きさを有する工作物等」と定義されています。実務上、最も注意が必要なのは「土地(道路など)」と「その上の移動体(車両など)」の区別です。
| カテゴリー | 物件に該当するもの(30mの距離が必要) | 物件に該当しないもの |
|---|---|---|
| 車両・輸送機器 | 自動車、鉄道車両、船舶、航空機、建設機械など | (特になし) |
| 工作物・建造物 | ビル、住居、工場、橋梁(橋)、高架、電柱、電線、信号機、街灯など | 土地(道路、線路、堤防、田畑など) |
| 自然物 | (特になし) | 樹木、雑草、花、山、岩など |
【重要:実務上のトラップ】 上記の通り、道路や線路そのものは「物件」ではありません。しかし、その上を走る自動車や電車は「物件」に該当します。 道路自体から30m離れていても、走行中の車が接近した瞬間に「30mルール違反」となるリスクがあるのです。また、日本の市街地には電柱や電線が張り巡らされており、これらすべてが物件である以上、許可なしに市街地で30mの距離を保つことは現実的に不可能です。
4. 具体例で見る「やってしまいがちなNG飛行」
法解釈を誤り、意図せず法令違反となってしまう代表的なケースを挙げます。
- 橋の下や周辺での飛行: 道路は物件ではありませんが、構造物である「橋(陸橋)」は物件です。橋の下をくぐる場合、橋の天井や支柱から30mを確保することは物理的に不可能であり、事前の承認がない限り明確なNG行為となります。
- 自宅の庭での飛行: 自分の敷地内であっても、隣家が30m以内にある場合は規制の対象です。四方を壁と屋根で囲まれた完全な室内(または網などで囲われた閉鎖空間)でない限り、隣家の建物との距離には細心の注意が必要です。
- 電柱・電線の付近: 道路上空であれば安全と考えがちですが、張り巡らされた電線から30m離れていなければ承認が必要です。電線は細く視認しづらいため、目に見えない「距離不足」による違反が多発しています。
5. 30m未満で飛行させるための手続き:許可・承認の申請
業務や空撮の現場で、人や物件から30m以内の距離で飛行させたい場合は、あらかじめ国土交通省への承認申請が必須となります。
申請には大きく分けて以下の2種類があります。
- 個別申請: 飛行日時や場所を特定して、その都度申請する方法。
- 包括申請: 「1年間・日本全国(等)」で承認を得る方法。一度の申請で柔軟な運用が可能になるため、業務利用には必須と言えます。
※包括申請の注意点: 包括申請は原則として「業務(仕事)」目的でのみ利用可能です。ただし、ここでいう「業務」には、YouTubeでの広告収入や、将来的なビジネスのための練習、写真販売目的の撮影なども含まれます。「レジャー目的のみ」の場合は包括申請が下りない可能性がある点に注意してください。
現在、申請はオンラインシステム「DIPS 2.0」で行うのが主流です。機体登録と飛行許可・承認がシステム上で紐付けられているため、現在はDIPS 2.0の利用が事実上義務化されています。
6. 申請に必要な書類と審査のポイント
承認を得るためには、主に以下の3点に関する基準を満たす必要があります。
- 機体の機能・性能: 安全基準を満たした機体であること(プロペラガードの装着など)。
- 操縦者の実績: 10時間以上の飛行経歴や、必要な知識・技能を有していること。
- 安全確保体制: 適切な飛行マニュアルを作成・遵守すること。
【専門家のアドバイス:独自マニュアルの重要性】 多くの方は国交省の「標準マニュアル」をそのまま使用しますが、これには「風速5m/s以上での飛行禁止」など、実務上厳しすぎる制限が含まれています。我々行政書士がサポートする場合、現場の実態に合わせた「独自マニュアル」を作成し、より柔軟かつ現実的な条件(例:風速制限の緩和など)で承認を通すことが可能です。
7. まとめ:ルールを守って安全なドローンライフを
「人・物件との30m距離」の確保は、航空法の根幹を成すルールです。何が第三者で、何が物件(特に行路上の車両など)にあたるのかを正しく認識することが、検挙や事故を防ぐ唯一の道です。
また、包括申請を取得しておくことは、業務の効率化だけでなく、ドローンを活用したビジネス(撮影、点検、PR等)を円滑に進めるための強力なライセンスとなります。
もし申請手順や独自マニュアルの作成、複雑なルールの解釈に不安がある場合は、国土交通省のヘルプデスクや、ドローン法務に精通した行政書士などの専門家へ相談することをお勧めします。正しい知識と適切な手続きを行い、安心・安全なドローン飛行を実現しましょう。