1. はじめに:ドローン個別申請とは何か?
ドローンの利活用がビジネスの現場で急速に広がる中、安全かつ合法的に運用するための「交通ルール」を遵守することは、事業継続において極めて重要です。航空法に基づく手続きには大きく分けて「包括申請」と「個別申請」がありますが、より高度な運用や特定の条件下で必須となるのが「個別申請」です。
個別申請とは、特定の案件ごとに「いつ・どこで・どのような目的で」飛ばすかをピンポイントで申請し、国土交通省の許可を得る手続きを指します。広く一般的な飛行をカバーする包括申請とは異なり、特定の場所や日時に限定される分、より詳細な安全対策の審査が行われます。この記事では、専門家である行政書士の視点から、個別申請の全体像と具体的な進め方を徹底解説します。
2. なぜ「個別」の申請が必要なのか?その理由と目的
包括的な許可だけでは不十分で、なぜ個別の申請が求められるのでしょうか。その背景には、空と地上の安全を確保するための4つの重要な目的があります。
- 空の安全: 空港周辺などは航空機との衝突リスクが非常に高いエリアです。個別に飛行ルートや高度、具体的な安全対策を審査することで、有人機との安全な共存を図ります。
- 地上・建物の保護: 人口集中地区(DID地区)などの墜落リスクが高いエリアでの運用、特に夜間などの視界が悪い状況では、機体整備や落下防止措置といった個別の安全対策が不可欠です。
- プライバシー保護: 住宅地や商業エリアでの撮影は、意図せず個人の生活空間を映し出すリスクがあります。飛行計画を通じて撮影目的を明確にし、プライバシーへの配慮を徹底させます。
- 産業・環境への貢献: 150m以上の高度や夜間目視外飛行など、包括申請では認められない特殊な条件下での飛行を実現し、精密点検や広域測量といった高度なビジネス活用を可能にします。
3. 【チェックリスト】個別申請が必須となる8つの代表的ケース
以下のケースに該当する場合、包括申請では対応できず、個別の申請が必須となります。
- 空港等の周辺空域での飛行
- 地表・水面から150m以上の高さでの飛行
- 人口集中地区(DID地区)での夜間飛行
- 夜間における目視外飛行
- 補助者を配置しない目視外飛行
- 趣味・個人的な目的での飛行(趣味目的は包括申請の対象外)
- 研究開発や性能試験目的の飛行
- イベント(催し物)会場上空での飛行
特に注意すべき点として、包括申請で「夜間飛行」と「目視外飛行」の許可をそれぞれ得ていたとしても、この2つを同時に行う(夜間の目視外飛行)場合は、別途個別申請が必要になります。
4. 個別申請と包括申請の徹底比較
運用の形態に合わせて適切な申請を選択できるよう、両者の違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | 個別申請 | 包括申請 |
|---|---|---|
| 飛行頻度・有効期間 | 原則として案件ごと(指定日時のみ) | 同一条件で繰り返し飛行可能(最長1年) |
| 適用範囲(場所・日時) | 特定の場所・日時に限定 | 日本全国などの広範囲なエリア・期間 |
| 審査期間 | 通常10開庁日(数週間程度) | 通常10開庁日(内容により異なる) |
| 主な用途 | 特殊な条件(150m超、空港周辺、イベント等) | 日常的な業務(DID地区内、日中の目視外等) |
5. 失敗しないための「ドローン個別申請」4ステップ
個別申請をスムーズに通過させ、確実な許可取得を目指すための4ステップを解説します。
ステップ1:飛行計画の策定
国土地理院地図等を使用し、飛行エリアが規制対象(空港周辺、DID地区、150m以上など)であるかを確認します。その上で、場所、高度、ルート、日時を具体化します。この段階で、飛行内容が「カテゴリーII」や「カテゴリーIII」のどちらに該当するかを意識することが、プロフェッショナルな実務の第一歩です。
ステップ2:安全管理体制の構築と「飛行マニュアル」の準備
操縦者の技能(夜間・目視外各10時間以上の実績など)や機体整備状況を確認します。ここで極めて重要なのが、**「安全マニュアル(飛行マニュアル)」の作成と、対人・対物双方をカバーする「保険加入」**の証明です。通信途絶や不時着、事故発生時の連絡体制といった緊急時対応を文書化し、安全管理体制を整えてください。
ステップ3:DIPS 2.0での申請手続き
申請は原則としてオンラインシステム「DIPS 2.0」で行います。申請先は飛行内容や場所によって以下のように分かれます。
- 一般の個別申請(DID地区、目視外等): 飛行場所が新潟・長野・静岡より東なら「東京航空局」、富山・岐阜・愛知より西なら「大阪航空局」が管轄です。
- ※飛行場所が東西の境界をまたぐ場合は、申請者の住所地を管轄する航空局へ申請します。
- 空港周辺・150m以上の飛行: 各空港事務所への申請となります。東日本エリアは「東京空港事務所」、西日本エリアは「関西空港事務所」が窓口です。
ステップ4:審査と補正対応
通常10開庁日の審査期間を要します。内容が複雑な場合はさらに時間を要することもあるため、飛行予定日の2〜3週間前には申請を完了させてください。不備がある場合は補正指示が出されます。
6. 許可取得後の必須アクションと運用ルール
許可証が発行されたら手続き終了ではありません。運用段階で以下の法的義務を遵守する必要があります。
- 許可証の携帯: スマートフォン等での電子保存、または印刷した許可証を飛行時に必ず携帯してください。
- 飛行計画の通報: 飛行前に必ずDIPS 2.0上で飛行計画の登録(通報)を行う必要があります。
- 別途許可の取得: 航空法の許可とは別に、公園、山林、他人の土地などの管理者・所有者からの同意を得てください。
- 飛行日誌の作成と記録義務: 飛行の日時、場所、時間、点検結果、異常の有無を**「飛行日誌」**に記録することは法律上の義務です。
7. よくある不備と成功のためのコツ
審査を一度で通過させるために、以下のポイントを再点検してください。
- 入力ミスと番地抜けの防止: 住所の番地抜けや地図の範囲ミスは、最も多い補正理由です。申請前に一字一句の再確認を怠らないでください。
- 「補正期限」の厳守: DIPSから補正指示が出た場合、対応には期限があります。期限を過ぎると申請自体が取り下げ(却下)となるため、通知には即座に対応しましょう。
- 飛行経験要件の厳格な確認: 夜間や目視外飛行では、各10時間以上の経験が審査のキーとなります。虚偽のない正確な実績を整理して提示してください。
- 余裕を持ったスケジュール: 繁忙期や特殊な案件では、審査に通常以上の時間がかかることがあります。ビジネスチャンスを逃さないよう、早めの着手が最大の防御です。
8. まとめ:法律を味方につけてビジネスを加速させる
ドローンの個別申請は、一見すると煩雑で高いハードルに感じられるかもしれません。しかし、この手続きを適切に行うことは、単なる法令遵守に留まりません。包括申請では不可能な「特別な条件下での飛行」を可能にすることは、競合他社にはない新たなビジネス価値を創造するための強力な武器になります。
法令を正しく理解し、緻密な安全計画を立てる。その姿勢こそが、クライアントからの信頼を勝ち取り、ドローンビジネスを成功へと導く「安全飛行の羅針盤」となるのです。法律を味方につけ、次のステージへと踏み出しましょう。